糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症とは、糖尿病による合併症の一つであり、糖尿病が原因で目の中の網膜という組織が損傷することで視力が低下する疾患です。
血液中のブドウ糖はインスリンというホルモンの作用により血液中に取り込まれ、エネルギー源になる、または、脂肪やグリコーゲンという物質に変換されて肝臓や筋肉に蓄えられます。
しかし、糖尿病になると血液中のブドウ糖が上手く細胞に取り込まれず、血糖値が上昇します。このような高血糖状態が続くと、全身の血管に様々な影響があらわれ、糖尿病細小血管合併症を引き起こします。
糖尿病はこのような合併症のひとつで、高血糖が続くことで網膜の血管が損傷し、血管が詰まる、変形する、出血するなどの障害が起き、様々な症状があらわれます。
糖尿病網膜症の初期段階では、自覚症状はほとんど見られませんが、次第に視界がかすむ、飛蚊症、視力低下、視野障害などの症状が現れます。末期になると、緑内障や網膜剥離などを併発するほか、失明に至ることもあるため注意が必要です。
定期的な眼科受診を
糖尿病の方は、まず眼科での検査を受けることが重要です。糖尿病網膜症は、糖尿病の方がすぐに網膜症になるわけではなく、数年~10年程時間をかけてゆっくりと病気が進行していきます。このため、初期段階でしっかりと血糖コントロールを行うことで、糖尿病網膜症を予防することができます。
糖尿病を発症している方は、定期的に眼科で検査を行い、早めに異常を発見することが大切です。
糖尿病網膜症の進行
糖尿病網膜症は、以下の3段階に進行程度が分類されます。
初期:単純網膜症
糖尿病網膜症の初期です。適切な血糖コントロールを行うことで、網膜症の進行を抑えることができます。
この時期に眼底検査を行うと、小さい出血点や硬性白斑などが見つかります。この段階では、自覚症状がないため、定期的に眼科での検査を受けることが大切です。
中期:増殖前網膜症
単純網膜症よりもさらに状態が進行しています。
血管閉塞が起こることで、静脈に異常が現れます。まだ自覚症状がありませんが、放置すると末期である増殖網膜症へと進んでしまうため、適切な治療を行う必要があります。
末期:増殖網膜症
糖尿病網膜症の最も重症な状態です。網膜や硝子体に新生血管という脆い血管が伸びるようになり、新生血管の壁が破れると、硝子体に出血することもあります。
硝子体とは眼球内の大部分を占める透明な組織ですが、この硝子体に出血が起こると、視界に黒いものが見えるなどの飛蚊症があらわれます。出血量が多い場合には急激な視力低下を自覚することもあります。
さらに、増殖組織の形成により、網膜が引っ張られてしまい網膜剥離を引き起こす事もあります。
このような状態になってしまうと、手術による治療が必要になりますが、手術を行っても視力が回復しない場合も出てきます。また、この状態になってしまうと血糖コントロールに関わらず、糖尿病網膜症は進行してしまうため、増殖網膜症の段階になる前に治療を行う事が重要です。
糖尿病網膜症の検査
視力検査
視力検査は目の状態を調べる、基本となる検査です。矯正視力においては、1.0以上見られない場合は、何らかの疾患または異常がある可能性があります。
広角眼底カメラ検査
デイトナ(広角眼底カメラ)で検査を行うことで、従来の眼底カメラ(45度画角)に比べて約4倍の200度の画角(約80%以上の網膜)で撮影することができます。また、これまでは散瞳剤(瞳孔を拡げる薬剤)を使用して行う必要がありましたが、デイトナの検査では散瞳剤が不要で非接触検査となりますので、患者様のご負担が軽減できます。
光干渉断層計(OCT)検査
網膜の断層像を映し出して、網膜の状態を確認します。眼底に近赤外線を照射することで、層構造の網膜を立体的に観察できます。眼底の断面図をミクロンレベルで撮影できますが、非接触で検査できるため患者さんの負担が少ない検査とされます。
光干渉断層血管撮影(OCT-Angio)検査
造影剤を使用しなくても、網膜などの血管状態を確認できる検査機器が光干渉断層計(OCT-Angio)です。鮮明に画像を映し出し、血管の詰まりや新生血管の有無などを観察でき、疾患の早期発見が可能です。 検査における所要時間が短く、造影剤を使わない分、患者様の体への負担を軽減できます。
糖尿病網膜症の治療
血糖値のコントロール
糖尿病網膜症の進行予防のために、かかりつけの内科医と密に連携をとり診療を行います。
硝子体注射(抗VEGF療法)
VEGF(血管内皮増殖因子)は新生血管を増殖させる働きがあります。この働きを抑制するため、抗血管新生薬(抗VEGF薬)を硝子体の中に注射します。新生血管の増殖を抑えて、網膜の浮腫を軽減して病気の進行を抑えます。
レーザー光凝固術(網膜光凝固術)
糖尿病網膜症の基本的な治療方法です。眼底出血部分や血流の滞った部分にレーザー光を照射します。糖尿病網膜症の進行を抑えられますが、視力が回復するわけではありません。
網膜硝子体手術
網膜硝子体手術は、糖尿病による硝子体出血や網膜剥離などを合併した増殖糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫に対して行われます。
出血の除去、網膜剥離の治療、黄斑浮腫の改善などにより視力回復が期待できます。
点眼麻酔とテノン嚢下麻酔(局所麻酔)を用いるため、手術における痛みはありません。手術にかかる所要時間は約30~60分で、手術中は医師と会話もできるのでご安心ください。